首  妹の首は美しかった。  ふと顔をあげた時に突きだされる、丸々と太った魚のようなつやつやと張った肉感に、楠鴫でさえも時々息を呑む事があった。  ある時、楠鴫は双子である自分の首も妹と同じように美しいのだろうかと思った。鏡を通して毎日見てはいるが、それが美しいものかどうかと気にして見た事はなかった。  楠鴫は妹から手鏡を借りて、そこに映る自らの首を眺めてみた。同じ日に同じ母親から生まれてきた筈であるのに、自分の首には美しさを感じなかった。真ん中に浮き上がった軟骨が悪いのかと指で隠してみても変わらなかった。 「何か気になるの?」 「俺とお前は似ていると思っていたが、実際はそうでもないらしい」 「そっか。残念だな」  妹は楠鴫から手鏡を取り返すと、自分と兄の顔を交互に見返していたが、少し経つうちに興味を失ったのか、テーブルの上に置いてしまった。  妹が「残念だ」と言った意味が楠鴫にはわからなかった。  ただ、楠鴫には、妹の美しさが妹だけのものである事を喜ぶ想いがあった。